卒業生とその進路

抵抗変化型メモリをシナプスとして利用したニューラルネット集積回路に関する研究


赤穂 伸雄

2010 年度 卒 /修士(工学)

修士論文の概要

本研究は、抵抗変化メモリをシナプスデバイスとして応用したアナログニューラルネットワークハードウエアの実現可能性を議論する事を目的に行ったシナプスデバイス設計とニューラルネットワーク設計に関する研究の成果をまとめた物である。

ニューラルネットワークは多数のニューロンとシナプスで構成されているニューラルネットワークの規模を大きくするとシナプスの数が急激に増え、このシナプスをいかに実装するかがニューラルネットワークハードウエアの重要な課題となっている。シナプスはそれぞれ独立した結合強度(ニューロン間を接続する強度)を持ち、この結合強度が変化する事によりニューラルネットワークが学習する。この結合強度を保持するためには記憶素子を用いる必要が有る。これまでニューラルネットワークに用いる記憶デバイスとして、キャパシタやフラッシュメモリが用いられたが、キャパシタはリーク電流により情報が失われてしまう素子であり、フラッシュメモリは書き換えに高電圧を必要としていて書き換えのための制御回路が必要となるため、長時間の記憶ができる高密度に集積可能なシナプスデバイスが存在していなかった。そこで近年、抵抗変化メモリがシナプスデバイスに利用できる記憶素子として注目されている。抵抗変化メモリは記憶する情報を素子の抵抗値として保持する素子で、電気的には抵抗特性を示す。また、抵抗変化メモリ高密度集積化が可能な素子であり、シナプスデバイスの高密度化が期待される素子である。しかし、抵抗変化メモリを用いたニューラルネットワークの歴史は短く、抵抗変化メモリを用いたニューラルネットワークは未だ実装されていない。本研究ではニューラルネットワークの実装を目指し、抵抗変化メモリを用いたシナプスデバイスの実装とニューラルネットワークのシミュレーションを行った。

本稿ではまず、抵抗変化メモリとそのシミュレーション用のモデルについて説明する。一般的な抵抗変化メモリの物理モデルは確立されていない。そこで、抵抗変化メモリの動作やビヘイビアモデルを基にシミュレーションモデルを作成した。

次に、抵抗変化メモリを用いたシナプスデバイスを提案した。シナプスはニューロンの発火タイミングに依存して結合強度が変化する性質(STDP)を持っている。このSTDPの特徴を持つシナプスデバイス設計し、実デバイスを用いた実験により実装したシナプスデバイスがSTDPを持つ事を確認した。

最後に、抵抗変化メモリを用いたニューラルネットワークについて議論する。抵抗変化メモリはニューラルネットワークへの応用が期待されているが、その設計技術は確立されていない。そこで、作成したシミュレーションモデルを用いてシミュレーションを行い、抵抗変化メモリを用いたニューラルネットワークの実現可能性や問題点について検討した。

学術論文

  1. Akoh N., Asai T., Yanagida T., Kawai T., and Amemiya Y., "A behavioral model of unipolar resistive RAMs and its application to HSPICE integration," IEICE Electronics Express, vol. 7, no. 19, pp. 1467-1473 (2010).

国際会議

  1. Akoh N., Asai T., Yanagida T., Kawai T., and Amemiya Y., "A ReRAM-based analog synaptic device having spike-timing-dependent plasticity," Nanoelectronics Days 2010, p. 19, Aachen, Germany (Oct. 4-7, 2010).
  2. Akoh N., Asai T., Amemiya Y., Yanagida T., and Kawai T., "A behavioral model of unipolar resistive RAMs and its application to HSPICE integration," The 17th International Workshop on Oxide Electronics, #167, Hyogo, Japan (Sep. 19-22, 2010).
  3. Akoh N., Asai T., and Amemiya Y., "Towards memristor-CMOS-hybrid semiconductor devices for neural networks," Proceedings of the 14th International Conference on Cognitive and Neural Systems, p. 85, Boston, U.S.A. (May 19-22, 2010).

受賞

  1. 赤穂 伸雄, "バイポーラ型抵抗変化メモリ素子を用いたSTDPシナプスデバイス," IEEE CIS Japan - 2010年度Young Researcher Award(IEICE NC研究会), Mar. 2011.
  2. 赤穂 伸雄, 電子情報通信学会 - 北海道支部長賞(学生部門), 2009年3月.

国内学会

  1. 安達 琢, 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 本村 真人, "メモリスタ-CMOSハイブリッド回路による非対称STDPシナプスデバイス," 電子情報通信学会非線形問題研究会, (知床), 2011年6月.
  2. 宮 曦媛, 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 本村 真人, "ユニポーラ型ReRAMネットワークを用いた経路探索アナログガジェット," 電子情報通信学会非線形問題研究会, (知床), 2011年6月.
  3. 安達 琢, 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 雨宮 好仁, "非対称の時間窓を持つメモリスタSTDPシナプスデバイス," 電子情報通信学会総合大会, (東京), 2011年3月.
  4. 宮 曦媛, 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 雨宮 好仁, "ユニポーラ抵抗変化メモリのアナログ応用〜迷路の経路探索〜," 電子情報通信学会総合大会, (東京), 2011年3月.
  5. 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 柳田 剛, 川合 知二, 雨宮 好仁, "バイポーラ型抵抗変化メモリ素子を用いたSTDPシナプスデバイス," 電子情報通信学会 ニューロコンピューティング研究会, (北九州), 2010年10月.
  6. 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 雨宮 好仁, "スパイクタイミングに依存してコンダクタンスが変化するメモリスタ神経デバイス," 電子情報通信学会ソサイエティ大会, (大阪), 2010年9月.
  7. 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 雨宮 好仁, "抵抗変化型メモリをシナプスに用いたニューラルネットワークにおける教師有り学習回路," 電子情報通信学会総合大会, (仙台), 2010年3月.
  8. 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 柳田 剛, 川合 知二, 雨宮 好仁, "抵抗変化型メモリをシナプスとして利用したニューラルネット集積回路に関する考察," 日本神経回路学会 第19回全国大会, (仙台), 2009年9月.
  9. 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 柳田 剛, 川合 知二, 雨宮 好仁, "ユニポーラReRAMの簡易SPICEモデル," 電子情報通信学会ソサイエティ大会, (新潟), 2009年9月.
  10. 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 雨宮 好仁, "ニューラルネットワークハードウェアにおける抵抗変化型メモリの積極的利用に関する一考察," Brain inspired-system研究会, (北九州), 2009年9月.
  11. 赤穂 伸雄, 浅井 哲也, 雨宮 好仁, "視覚野の階層構造を模擬したパターン認識処理を行うアナログCMOS回路," 電子情報通信学会総合大会, (松山), 2009年3月.