弱電気魚の混信回避行動モデルにもとづく周波数比較器に関する研究
藤田 大地
2009 年度 卒 /修士(工学)
修士論文の概要
本研究は、弱電気魚が周波数差の正負を判別するために外部から得た情報を処理する基本神経ネットワークのアナログ集積回路化に関するものである。神経系における情報処理が持つ性質や特徴を巧く取り入れることができれば、生物と同様にノイズや素子特性のばらつきに強いアナログLSIが実現できる。そこで、本研究は現在得られている弱電気魚の脳における情報処理の生理学的知見を基に、そのシステムの機能および構造を模倣する基本アナログ回路およびネットワークの実現を目的とした。
初めに、弱電気魚が混信回避行動を行う際に脳内の神経ネットワークで行われる情報処理について説明する。混信回避行動を行うとき、弱電気魚は周波数差の正負を判別する必要がある。これを行うため、体の表面にある電気受容器で検出した電圧の振幅/位相情報を符号化して、脳にある神経ネットワークに送る。この情報より、検出した波の振幅の増減情報、体の複数箇所で検出した波の位相を比較した情報を得る。得た情報より魚は周波数差の正負を判別するが、この処理が行われる神経ネットワークは回路化するには複雑すぎる。そこで2入力を想定した簡略化した神経ネットワークを提案した。提案したネットワークは五種類の細胞で構成した。
次に、提案したネットワークの一部である電気受容器を構成するP及びT細胞の特性を模倣したアナログ電子回路を提案し、回路の動作をSPICEシミュレーションで確認した。これにより、P細胞を模倣した回路が、振幅変調された電流の包絡線の値をスパイク密度に変換できることを示した。さらにもう一方の回路が、入力として与えた交流電流がある特定の位相であるときにスパイクを出力することを示した。
次に、提案したモデルの神経ネットワークを構成するE細胞、小細胞および符号判別細胞の特性を模倣したアナログ電子回路を提案した。さらに、提案したモデルを基にネットワークを組み、SPICEシミュレーションでそれらの動作を確認した。シミュレーションにより、P-及びE細胞回路で構成した回路ネットワークが、入力電流の包絡線の値の増加を検出できたこと、および二つのT細胞回路および小細胞回路で構成した回路ネットワークが、二種類の交流電流の位相差の正負を判別できたことを示した。
最後に、上述した基本回路を全て組み合わせて、周波数差の正負を判別する回路ネットワークを提案した。提案したネットワークは、検出した包絡線の増減情報と位相差の正負の情報を基に周波数差を判別する。提案したネットワークが周波数差の正負を判別できるかSPICEシミュレーションで確認した。
学術論文
国際会議
受賞
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