卒業生とその進路

生物の縞模様生成メカニズムに学んだディジタル信号処理アーキテクチャに関する研究


小室 勝郎

2014 年度 卒 /修士(工学)

修士論文の概要

本研究は、高速な縞パターン画像生成を実現するためのハードウェア向け反応拡散アーキテクチャの提案と、そのFPGA実装に関するものである。

ソフトウェアによる反応拡散は、画像サイズや動作環境によっては高速に処理することが難しく、より高速な動作を行うためにはハードウェアの実現が必要であった。それに加え、ハードウェア化にあたっての回路規模の縮小、かつ高速な動作を行うことができるアーキテクチャの開拓が課題となっていた。そこで本研究では、従来の反応拡散アーキテクチャをより簡潔化し、高速に処置できる新しい反応拡散プロセッサの開発を目的とした。

最初に、反応拡散モデルの応用例としてステガノグラフィおよびそのシミュレーション結果について説明した。このステガノグラフィに用いた反応拡散モデルは、生物の縞生成メカニズムの基本となるセルオートマトンモデルを用いている。作業行程として、まずオリジナルの画像の中に秘匿情報を埋め込み、オリジナル画像と秘匿情報を埋め込んだ画像の双方に対して同じ反応拡散パラメータを用いた画像処理を行なう。処理を行なった後、縞パターンの画像が形成され、それらを差分計算することで、埋め込んだ情報を取り出すことができる。ハードウェア化に至る前置きとして、ソフトウェアシミュレーションを実行し、その動作を確認した。

次に、この反応拡散アーキテクチャをハードウェア化するための行程を説明する。まずハードウェア化に向けたより簡単に動作が可能な反応拡散モデルの探索を行なった。その後、簡単なモデルを用いたアーキテクチャをFPGAに実装し、そのシミュレーション結果およびハードウェア実装後の動作実験結果について解説した。

最後に、提案したアーキテクチャの拡張に向けた考察について説明した。実装したアーキテクチャの入出力データを外部メモリに格納することで、高速性を維持したままより大容量なデータの処理を行うことができる可能性について解説し、その拡張回路を実現するための外部SRAM接続についての考察を行った。

学術論文

  1. Ishimura K., Komuro K., Schmid A., Asai T., and Motomura M., "FPGA implementation of hardware-oriented reaction-diffusion cellular automata models," Nonlinear Theory and Its Applications, vol. 6, no. 2, pp. 252-262 (2015).
  2. Ishimura K., Komuro K., Schmid A., Asai T., and Motomura M., "Image steganography based on reaction diffusion models toward hardware implementation," Nonlinear Theory and Its Applications, vol. 5, no. 4, pp. 456-465 (2014).

国際会議

  1. Ishimura K., Komuro K., Schmid A., Asai T., and Motomura M., "Stochastic resonance in a unidirectional network of nonlinear oscillators driven by internal noise," Proceedings of the 2014 International Symposium on Nonlinear Theory and its Applications, pp. 89-92, Cinema of Bourbaki Panorama, Luzern, Switzerland (Sep. 14-18, 2014).

国内学会

  1. 石村 憲意, 小室 勝郎, Schmid A., 浅井 哲也, 本村 真人, "興奮性媒体の自発的活動による自己確率共鳴," 第3回 情報ネットワーク科学研究会・複雑コミュニケーションサイエンス研究会合同ワークショップ, CCS-016, 丸駒温泉, (千歳), 2014年8月7-8日.
  2. 石村 憲意, 小室 勝郎, 浅井 哲也, 本村 真人, "興奮場における持続的集団ノイズ生成のメカニズム:外部雑音源を使わない確率共鳴," 文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」分子アーキテクトニクス領域会議, 天童温泉「滝の湯」, (山形), 2014年6月6-7日.
  3. 小室 勝郎, 石村 憲意, 浅井 哲也, 本村 真人, "反応拡散モデルを応用した生物的ステガノグラフィシステムとその回路実装," 文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」分子アーキテクトニクス領域会議, 天童温泉「滝の湯」, (山形), 2014年6月6-7日.
  4. 石村 憲意, 小室 勝郎, Schmid A., 浅井 哲也, 本村 真人, "統計的解析法に耐性のあるステガノグラフィアルゴリズムとそのFPGA実装," LSIとシステムのワークショップ, 北九州国際会議場, (北九州市), 2014年5月26-28日.
  5. 石村 憲意, 小室 勝郎, Schmid A., 浅井 哲也, 本村 真人, "縞・斑点画像を生成/修復する反応拡散モデルのFPGA実装," 第3回バイオメトリクスと認識・認証シンポジウム, pp. 98-103, A10-1, 日本科学未来館, (東京), 2013年11月26-27日.
  6. 小室 勝郎, 石村 憲意, Schmid A., 浅井 哲也, 本村 真人, "ハードウェア向け反応拡散モデルの電子透かし応用とそのFPGA実装," 計測自動制御学会 システム・情報部門 学術講演会 2013, ピアザ淡海, (大津), 2013年11月18-20日.