サブスレッショルドCMOS回路による高抵抗デバイスに関する研究
浅井 慎一
2009 年度 卒 /修士(工学)
修士論文の概要
本論文は、著者が北海道大学大学院情報科学研究科在学中に情報エレクトロニクス専攻集積システム講座機能システム学研究室において行ったサブスレッショルドCMOS差動回路による高抵抗デバイスに関する研究をまとめたものである。
CMOS LSIの微細化・高集積化は、これまで大きく発展を遂げており、今後もさらなる進展が予想される。しかし、LSI上では、電子回路を構成するための基本要素である抵抗素子や大容量キャパシタは大面積を要し微細化・高集積化と相容れないのであまり使われない。これらを使用できれば回路の構成を簡単化でき、これまで実現が困難であった新たな機能を持ったLSIの開拓が期待できる。
CMOS集積回路では、抵抗は一般にポリシリコンで構成されるが、MΩオーダの高抵抗を実装しようとすると、かなりの面積を必要とする。シート抵抗1 kΩ/□ - 2 kΩ/□の高抵抗ポリを使ったとしても、たとえば、100 MΩの抵抗では0.5 mm2の大面積となり、チップの小型化の妨げとなる。また、ポリ抵抗は、一度実装すると抵抗値を外部から変更できないので、可変抵抗を必要とする用途にも適さない。
LSI上で小面積に抵抗値を変更可能な高抵抗を構成するため、CMOS差動回路を使って等価的に高抵抗素子をつくる方法を提案した。高抵抗を実現するためには、微小電流が必要となる。そこで、MOSFETのサブスレッショルド領域を利用することを検討した。差動回路をサブスレッショルド領域、すなわち、0.1 - 100 nAの電流で動作させることにより、1 - 1000 MΩの抵抗を小面積に構成することが可能である。高抵抗デバイスのチップ試作を行い、実測により動作確認を行った。通常のポリ抵抗を用いて抵抗を構成した場合に比べ、大幅な面積削減につながることを確認した。また、提案する高抵抗デバイスの抵抗値の温度依存性を小さくする方法について検討を行った。絶対温度に比例する電流、すなわちPTAT電流を高抵抗デバイスのテイル電流として使用することで、温度依存性の小さい抵抗を実現可能である。この回路のシミュレーション解析により、動作確認を行った。PTAT電流を用いることにより、抵抗値の温度による変化を低減できることを確認した。
提案する高抵抗デバイスの応用例としてCR移相発振回路を構成した。チップ試作、実測により動作確認を行った。集積回路上で実現できる容量は小さいため、通常のポリ抵抗を使うかぎり、低周波の正弦波発振は困難である。しかし、高抵抗デバイスをCR移相発振回路に用いることで、数百Hzオーダの非常に低周波の正弦波を生成する発振回路を小面積に構成できることを確認した。
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