νMOSデバイスによるセルオートマトンLSIの研究
砂山 辰彦
2000 年度 卒 /修士(工学)
修士論文の概要
本研究の目的は、並列分散情報処理システムであるセルオートマトンをLSI化するための設計方針を確立することにある。それによって、既存の集積回路とは異なる新しい並列処理・機能処理LSIの開拓を目指したものである。
セルオートマトンは画像処理と適合性がよい並列分散処理システムであるので、この特徴を生かすと高速な画像処理が可能となる。本研究では、シリコン機能デバイスのνMOS FETを用いて画像処理用セルオートマトンLSIを構成し、チップ製作と特性評価を行った。その結果、新しい並列・機能LSIの実用化に向けた見通しを得ることができた。
近年の電子工学、特に情報処理システム分野における日進月歩の発展には目を見張るものがある。その背景には、現代社会の情報化が進み情報処理装置なしには成り立たないという事態の進展がある。このような状況に対応して、情報処理システム分野は常に最先端の技術で研究開発され、将来も発展し続けるであろう。
情報処理用のハードウェアに関しては、現在はノイマン型アーキテクチャとブール代数に基礎を置いたLSIコンピュータが主流となっており、この流れは今後も揺るぎないものと考えられている。しかし最近のマルチメディア社会の発展や、情報そのものが多種多様に細分化する傾向にあることで、現在のLSIコンピュータでは処理しきれない問題も増え続けてきている。また、製造上や設計上の問題により、動作速度・集積度・消費電力の点で近い将来に性能向上の限界がやってくると考えられている。そのような問題に応えるため、現在のLSIコンピュータの仕組みの基本であるノイマン型アーキテクチャ/ブール代数といった概念にとらわれない別種のアーキテクチャを利用することが必要となる。
非ノイマン型アーキテクチャの情報処理システムとしては、ニューラルネットワーク、セルオートマトン、ホロニックシステムなどのような並列処理と分散処理を行うシステムが挙げられる。これらはいずれも現用コンピュータを全面的に置き換えられるものではないが、現用のコンピュータの不得意な分野を補うものとして実用化が期待されている。
このような新しいアーキテクチャに基づくLSIを創り出すには、2つの方法がある。1つは材料組織そのものの特性や物理現象を応用してそれを情報処理に利用することである。例えば、単電子トンネリング現象や量子相関現象を利用して有用な情報処理を行う素子が提案されているが、まだ研究段階である。もう1つは、既存のCMOSデバイス技術を利用して新しいアーキテクチャを実現することである。後者の方法では、既存のデバイスを有効に利用するためのアイデアが重要となるが、LSI製作の上では問題は少ない。本研究ではこの後者の方法をとっている。
本研究では、非ノイマン型アーキテクチャのセルオートマトンを取り上げる。セルオートマトンの情報処理への応用例として、第一に高速画像処理が挙げられる。例えば高速移動する物体からの障害物検出などは、既存の逐次的な画像処理の速度ではとても対応できない。しかし、セルオートマトンの並列処理性・高速性を用いて画像処理することによりこれが可能となる。セルオートマトンの手法を用いて画像情報を圧縮し、画像輪郭や対象物体などの重要情報を並列に入力、処理、出力するインテリジェントセンサのような新しい画像処理LSIを開発することができる。しかし、これらを実用のものとしてデバイス化、回路化することは現在のところほとんど報告されていない。そこで本研究では、このセルオートマトンを既存のCMOSデバイスを用いて実現する方法の提案を待った。
現在、画像処理技術の応用分野は拡大の一途をたどっており、その重要性も増大している。このような新しい画像時代を迎え、画像処理に関連する分野への期待が高まっている。既存の画像処理は、コンピュータが画像データに対して逐次的に演算を行う方法が一般的になっている。しかし、輪郭抽出のリアルタイム処理や移動物体の検出といった高速処理が必要とされる処理には対処できない。また、2次元データをいったん時系列順に読み出して、これを電気的に記憶する手法が主流となっているため、画像処理には膨大な量のメモリが必要とされる。このことは、画像データの入力や演算結果の出力における処理速度に対しても非常に大きな制約となる。
一方、セルオートマトンは画像処理と適合性がよい並列分散処理システムであり、この特徴を生かした高速な画像処理が期待できる。今後、画像処理のリアルタイム性の要求に伴って、並列処理、操作性、センサー体型など新しいアーキテクチャや技術の重要性がますます増加すると思われる。特に汎用性や高速性を目的とした場合、アナログ方式・ディジタル方式の融合などの研究開発が有効になる。
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