量子ドットによる結合振動子系に関する研究
上野 友邦
2002 年度 卒 /修士(工学)
修士論文の概要
本研究は、新たなアーキテクチャに基づいた情報処理技術の開拓を目的とするものである。高度情報化の進展にともない、現用コンピュータシステムとは異なる情報処理技術の開拓が求められている。新たな情報処理技術の開拓のために、生態系・自然現象などで行なわれる複雑な情報処理を手本とし、これらの情報処理を基にした新たな情報処理デバイス-反応拡散デバイスの開発に目的を置いた。反応拡散デバイスの開発のために、上述の情報処理を模擬する電子回路を提案し、構成した電子回路の動作をシミュレーションによって確認した。
新たなアーキテクチャとして化学反応モデルの1つである反応拡散系に注目した。反応拡散系とは物質の反応とその拡散をモデル化したものであり、生命現象に現れるパターン形成や自己組織化現象の舞台となっている。例えば、真性粘菌の集合体・BZ反応溶液でみられるダイナミックなラセンパターンなどは反応拡散系でみられる代表的な現象である。このパターンは、物質がエネルギーや他の物質を取り込み・消費するといった過程で生じる。この複雑なメカニズムを持つ反応拡散系をデバイス上に実現できれば、既存の逐次型情報処理デバイスとは全く異なる情報処理デバイスの開発につながると考えられる。反応拡散系の持つパターン形成能力・並列な情報処理能力を利用し、生命現象に基づいた機能的な情報処理デバイスの実現を目指す。
反応拡散系の化学反応が行われる場(反応拡散場)は、化学物質の反応が行われる反応場と、反応場同士をつなぐ拡散場で構成される。化学反応の場では無数の反応場が存在する。本研究では、超高集積・超低消費電力が可能な量子デバイスを用いることにより反応拡散系を具現化することを考えた。量子デバイスの物理現象を利用することにより、非常にコンパクトに反応拡散デバイスを構成することができる。回路構成は、強い非線形性が必要な反応には単一電子トンネル現象を、拡散には電子トンネルが起こる時の急激な電位変化(パルス波)を対応させる。この反応にかかる時間(トンネル待ち時間)が、空間パターンの生成に重要な役割を果たす。これらの回路構成により超高集積・超低消費電力の反応拡散デバイスを実現することができる。
本研究では、提案した反応拡散デバイスの回路構成から定性的な特性を調べ、動作特性を数値シミュレーションにより確認した。さらに、高集積な場で反応拡散系にみられるダイナミックな非線形振動・空間パターンの生成を確認した。これは、反応拡散系が行う複雑な情報処理の基となる基本的かつ重要な特徴を得たといえる。また、確率論的な動作をする量子デバイスによる反応拡散モデルからこれらの振る舞いを得たことは、既存の反応拡散モデルとは異なる新たな反応拡散系を作り出したといえる。
本論文は、新たなアーキテクチャに基づく情報処理技術の開拓を目的として、量子デバイスによる反応拡散デバイスのデバイス化手法及び定性的な特性についてまとめた。これらは、反応拡散系に学ぶ新たな情報処理および情報処理デバイスの開拓につながる可能性を示したものといえる。
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